ブリーダー達は、作物の活力と健全性を向上させるためのいくつかの新しい方法を常に模索しています。有機栽培の分野では、ブリーダーの慣行栽培の経験が生かされ、一方で有機栽培は慣行栽培の分野での革新と持続可能性への道を切り開くことができます。「私たちは、真菌感染症、バクテリア、昆虫に対する耐性を可能な限り積み重ねた1つの品種を目指しています。」
1980年代にBejoは、野生のタマネギからべと病に対する抵抗性の遺伝資源を発見しました。我々のブリーダー達はそこに可能性を見出しました。つまり、その真菌 (Peronospora destructor) は多くの損失を引き起こす可能性があるからです。彼らは、抵抗性のある野生品種を交配・選抜プログラムに取り入れたのです。20年の歳月を経て、2000年代初頭、彼らの研究は最初の高い抵抗性をもつ黄色いタマネギを開発することで実を結びました。
慣行栽培の生産者は、初めはあまり興味を示しませんでした。当時、彼らはべと病を制御するための優れた薬剤を持っていました。一方、急速に成長していた有機栽培の生産者達は、両手を広げて新しい品種を歓迎しました。なぜなら、殺菌剤がなければ、病気が発生したときにできることはただ1 つ、できるだけ早く収穫するということだけだったからです。その結果、有機栽培タマネギの収量は完全に予測不可能となっていました。良い年に1ヘクタール当たり50トンを達成した生産者でも、病気が大発生すれば5トンを下回ることもあります。このような大きな変動は、主要な小売販売にとって致命的です。
その状況は、黄タマネギのHylanderやその後の赤タマネギのRedlanderなど、べと病に強い品種の導入によって変化しました。生産者は現在、1ヘクタールあたり少なくとも 25 から40トンの安定した年間収量を期待できます。この供給の継続性は、特にドイツの老舗のスーパーマーケットで有機タマネギに画期的な成果をもたらしました。慣行栽培の分野もこれに追随しています。例えば、フランスでは、べと病の化学的防除は検査の対象であり、小売市場では抵抗性のあるタマネギ品種が求められています。同じ遺伝資源をもとに、Bejoは現在、タマネギのセット球(Boga)と種シャロット(Innovator)の品種も開発しています。
有機栽培と慣行栽培が互いの強みを生かす
高い抵抗力を持つタマネギの例は、有機栽培部門の育種が慣行栽培部門の努力の恩恵を受けていることを示しています。Bejo のクロップ・リサーチ・マネージャーのTimo Petterは、次のように話します。「1980年代にタマネギの研究を開始したとき、私たちは慣行栽培への応用を検討していました。そうでなければ我々はこの育種に取り組まなかったと思います。というのも当時、有機市場は現在のような大きな市場にはほど遠いものだったからです。結果的には、この品種は有機栽培側からの需要増に応えて成功しました。」Bejoのブリーダー達は、有機市場と慣行市場を同時に見据えて仕事をしていますが、それは理にかなっています。なぜなら、どちらの市場も同じ形質の改良を求めているからです。Petterは話します。「慣行栽培は、有機栽培へ切り替わりつつあります。人工肥料や化学農薬の使用はすでに制限されており、この傾向は今後も続くと予想されます。育種はサステナビリティへの移行をサポートします。遺伝資源を味方につければ、化学物質は必要ないのです。」
フザリウム
慣行栽培の種苗市場は、化学物質を使用しない点において有機栽培者の経験から学べるところがあります。逆に、有機栽培の分野では、ブリーダーは Bejo が何十年にもわたって慣行栽培の育種で開発してきた品種や親系統を利用できるため、より早く解決策を見出すことができるのです。答えがすでにある場合もあります。Petterは、例として、土壌真菌フザリウムを挙げています。「最近まで、フザリウムが有機農場で問題になることはほとんどありませんでした。私たちは今、その変化を目の当たりにしています。幸いなことに、我々は20年前の育種プログラムの中から抵抗性を探し始めていました。なぜなら、慣行栽培ではすでに問題になっていたことだったからなのです。」
ブリーダーの仕事に終わりはない
育種は常に未完成の仕事です。作物の頑強性に関しては、より集約的な土地利用や気候変動の影響など、新たな課題に直面し続けています。一方で、抵抗性というものは決して絶対的なものではなく、病原体が好機をつかみ打破する可能性もあります。作物によって問題は異なります。例えば、ニンジンでは、ブリーダーは葉枯病 (Alternaria dauci)、斑点病、ウドンコ病などの葉の病気に注意を払っています。「健康な葉は作物をより緑に保ち、結果として全体的な抵抗力を高めることを意味します」とニンジンの育種マネージャーのWim Zwaanは話します。彼はまた、黒腐病 (Alternaria radicina) などの貯蔵病害や、空洞斑点 (Pythium) などの土壌伝染性病害に対する抵抗力の向上にも努めています。「ニンジンの栽培は集約化が進み、輪作が厳しくなってきています。その結果、耐性の高い品種への需要が高まっています。例えば、空洞斑点耐性品種のNorfokやNazarethはイギリスで人気があります。」
アブラナ科作物
アブラナ科作物の中でも、カリフラワー、ブロッコリー、結球タイプのキャベツでは、ブリーダーは真菌病である輪斑病(Mycosphaerella)やべと病に対する抵抗性の育成に取り組んでいます。その他の目標は、キャベツや夏カリフラワーの細菌感染症である黒腐病菌と、芽キャベツの白斑病菌に対する抵抗性であると、育種マネージャーのJan Sybe Wijngaardenは話します。
セロリとビート
セロリでは、比較的新しい品種であるCumbiaが、葉の斑点病であるセプトリアに対する優れた耐性を持つことから、資産となっているようだと、セロリやビートルートを含む作物育種マネージャーのJack van Dorpは話します。葉斑病のセルコスポラとウイルス感染症のリゾマニアもビートでよく見られる病害です。「我々の品種Bazzu は、我々がすでに成し遂げている大きな進展を表しています。そして、さらにほかの品種も続いていくでしょう。多くの育種系統で、セルコスポラに対する耐性レベルが高まっていることがわかります。品種に抵抗性を導入することは、継続的なプロセスです。特に、より持続可能な解決策を見出すために、抵抗力を組み合わせることに重点を置いています。」植物の頑強性は、1つの防御メカニズムだけから生じるものではありません。例えば、セルリアックの貯蔵病害の場合、球茎の形と硬さに注目する必要があります。「どんな収穫時の傷も、感染のきっかけとなる可能性があります。」とVan Dorpは話します。「現在、Bejoは、生食市場向けに、丸くて滑らかで魅力的な形の有望な新品種の試験をしています。」
昆虫
今後の大きな課題は、アブラムシ、ニンジンバエ、コナジラミ、アザミウマ、コナガ(Plutella)などの昆虫にどう対処するかです。植物の中には、虫に対して元から防御力を持つものがあり、そのような形質を見極め商業的な品種に交配できるかは、ブリーダーの腕にかかっています。この作業は、有機栽培用の品種だけでなく、すべての作物カテゴリーで行われています。例えば、防虫対策の難しい結球タイプのキャベツでは、慣行栽培品種と同様に解決策が急がれています。害虫は、化学薬品の手の届かないところにある丸みを帯びた葉の中に隠れる傾向があります。これは特にアザミウマに当てはまり、アザミウマはキャベツに損害を与えることで有名です、とキャベツの育種マネージャーのBert Janssenは話します。
抵抗力と耐性の積み重ね
より多くの健全な形質を兼ね備えることができる品種ほど、その価値は高いとJanssenは説明します。また、次のように付け加えます。「菌類、細菌、昆虫に対する抵抗力や耐性をできるだけ多く積み重ねた、ひとつの品種を目指しています。我々の白キャベツExpectは、アザミウマに対する耐性が広く評価されています。」耐性だけでなく、他の特性も健全な作物には有用です。ニンジンのブリーダーのZwaanは、例として草勢を挙げています。「ニンジンの栽培では、作物が素早く均一に成長することが望まれます。そうすれば、灌漑をあまり必要とせず、雑草も抑制しやすくなります。」
視覚的品質
しかし、植物が丈夫に育つことだけが問題なのではありません。特に生鮮分野では、有機栽培の生産者は製品の視覚的特徴に妥協することがほとんどできません。 Zwaanは話します「消費者はもはや斑点のある生のニンジンを受け入れません 。特に、有機栽培と慣行栽培の農産物が並んで売られているスーパーマーケットでは、顕著です。安い慣行栽培品で見た目も良ければ、買い物客は有機栽培品を選ぶ可能性は低くなります。」 Bejo は、少なくとも既存の品種と同等のパフォーマンスを維持していながら、特定の形質に付加価値がある場合にのみ、新しい品種を導入します。Wijngaardenは話します「栽培用の種子を注文するとき、次のシーズンでどのような課題があらわれるかはまだわかりません。そのため、さまざまな条件下で優れた結果をもたらす信頼性の高い品種が求められます。そういう意味で、多くの形質で10点の評価がつくもののいくつかの形質で2点や3点がついてしまう品種ではなく、それぞれの形質で7点を取れるようなバランスの良い品種を目指しています。」