ミツバチヘギイタダニ(バロアダニ)が寄生するミツバチの蜂群(コロニー)は、適切に処理されない場合、ひどく弱ってしまうことがほとんどです。しかし中には、ハチとダニが(仲良しとはいかないまでも)共生している巣箱があります。これは遺伝的特性に基づく行為の結果です。これこそが野菜の品種改良を行う会社であるBejoの社員が、全く異なる分野であるミツバチの品種改良にその領域を広げる理由です。

ミツバチヘギイタダニを克服する

Bejoで働く1,700人の従業員は、働き者の同僚たちによってサポートされています。約10億匹のミツバチたちによって、全ての作物は確実に受粉されます。ミツバチは種子生産においてなくてはならない存在です。採種研究国際統括マネージャーのYouri Draaijerはこう話します。「Bejoでは20人のビー・キーパー(養蜂担当者)が10,000の巣箱の世話をしており、一つの巣箱には約5万匹のミツバチが住んでいます。加えて個人養蜂家が所有する巣箱も管理しています。」

Bejoにとって、養蜂への投資はもちろんビジネスに関係しています。「当グループの国際ミツバチグループでは、ミツバチの健康と生産性を維持する最善の方法を話し合っています。我々は様々な特徴―群がる傾向がない、花蜜の採集に意欲的、そして穏やかな性格など―に基づいてミツバチを選抜しています。」

 

自然な行動

ミツバチヘギイタダニは、世界的に養蜂を行う上で最大の脅威であり、ヨーロッパや北アメリカでは野生のミツバチの個体数を大きく減少させる要因となりました。アジア以外の地域でミツバチヘギイタダニが見られるようになったのは比較的最近のことです。アジアに生息する野生のセイヨウミツバチは、これらの害虫に対して上手く適応しています。彼らは体を擦り合ったり、ダニを取り除いたり、足を噛んだりすることで定期的に自分自身やお互いの体を綺麗にしています。また、ミツバチヘギイタダニはミツバチの幼虫の中でしか繁殖できないため、彼らは幼虫たちを注意深く見守り、ダニが幼虫の巣房に入り込むと素早く反応し、ダニが寄生した幼虫を巣から取り除きます。Youri Draaijerは言います。「着目すべきは、彼らが何らかの方法でダニが寄生した幼虫に気づくことができるということです。」VSH(Varroa Sensitive Hygiene)と呼ばれるこの行動はアジアに生息するミツバチに限られたものではありません。ヨーロッパに生息するミツバチのコロニー中にも、同じような行動をとるものがいます。「前任の最高経営責任者(CEO)であるGer Beemsterboerが、ミツバチヘギイタダニに抵抗性を持つミツバチの品種改良を始める必要性に触れたのが5年前のことです。採種圃場における自然受粉は、健全なミツバチのコロニーがあってこそ守られます。しかしGer Beemsterboerはそれだけでなく、食糧生産や自然界においてミツバチがいかに重要な役割を果たしているか、という、社会的な重要性も動機としていました。」世界の食糧生産の3分の1は、動物による受粉に依存しています。その大半を占める80-90%の受粉がミツバチによって行われています。

 

女王蜂

交配はビー・キーパーにとって新しい挑戦です。これまで、ビー・キーパーの仕事は最良のコロニーを選抜し、働き蜂が女王蜂を生じさせる過程を誘導することに限られていました。Youri Deaajierはこう付け加えます。「その作業は至ってシンプルです。若い幼虫を女王蜂のための巣房に入れると、すぐに働き蜂がいわゆる「ロイヤルゼリー」を与え始めます。これは、成長すると働き蜂や雄蜂になる幼虫に与えられる花粉や蜂蜜とは異なります。このロイヤルゼリーによって幼虫たちは女王蜂へと成長します。」養蜂は約9000年前に始まりましたが、ミツバチの家畜化のレベルは今日でも非常に限られています。「事実、ミツバチはまだ野生の動物なのです。我々はミツバチの餌として砂糖水を与えることはできますが、自然の花蜜や花粉とは異なります。ロイヤルゼリーに関しては、育児蜂の下咽頭(口の一部)にある分泌腺から分泌されます。」結果として、コロニーに女王蜂を生じさせることは可能ですが、必要な栄養素を供給するのに十分な花が咲く夏季に限られます。したがって繁殖期間は数ヶ月に限定されます。

 

マーカー

VSHの特徴を持つミツバチのコロニーを早く見つけるためには、まずどの遺伝子がその行動に結びついているのか割り出す必要があります。「我々はそこから始めました」マーカーテクノロジー&ゲノミクスのリサーチマネージャーであるHenk Huitsはこう話します。「このプロジェクトへのアプローチ方法を決定したばかりです。我々はVSHの行動を全く示さない150の蜂群と、100%ダニに侵されていない50の蜂群を選抜しました。まず研究者達はそれら両方の蜂群のたくさんのミツバチ達のDNA配列を解析します。さらに、さまざまな部位の対立遺伝子頻度の変化を精査することでVSH特性に関与する領域を特定したい、と考えています。しかしながら、その行動が全てのコロニーの同じ遺伝子に基づいているかどうかはわかっていません。とはいえ、我々はVSHに関係のある染色体断片特有のマーカーが見つかることを期待しています。」マーカーの使用によって、やがてはVSHコロニーを選抜することも可能になり得ます。「しかしそれは、口で言うほど簡単ではありません。植物とミツバチの品種改良の間には大きな違いがあります。例えば、コロニーの血統は手に入れることが出来ない上に、植物のような統一された系統もありません。」一般的な方法としては、女王蜂を選抜し10〜20匹の雄蜂によって受精させます。この交配に他の雄蜂が入ってくるのを防ぐために、この過程は島や半島でよく行われます。ミツバチは海を渡るのを避ける傾向があるので、水が自然のバリアとなります。

Henk Huitsによると、「VSH(に関連する)遺伝子が見つかる領域を特定するには、少なくとも4年はかかります。その後、特定された領域と関連するマーカーを検証する必要があります。そうして初めて、ミツバチの交配を始めることが出来ます。この問題をさらに複雑にしているのはミツバチの特別な遺伝子です。雄蜂は半数体で、女王蜂の未受精卵から生まれます。働き蜂(メス)は女王蜂と同様に2組の16本の染色体(二倍体)を持つ一方、雄蜂は1組の16本の染色体(半数体)しか持っていません。しかし、人工授精は可能です。一匹もしくは複数の雄蜂により女王蜂を受精させることが出来ます。」植物のブリーダーは規模の大きい母集団からの選別に慣れているので、その知識を新しいミツバチの種を選定する際に応用できるのは利点の一つです。「もし研究中の系統が適切な特性を持ち合わせていないと判断した場合、二度と植えられることがないとしても、我々は何千もの種子を生産します。同様の方法をミツバチの品種改良でも試みようと考えています。多数の女王蜂を生産して、ミツバチの品種改良プログラムを続けていくために最良の種を選抜していくのです。」

 

コーポレーション(協力)

ミツバチはほとんど毎週のようにニュースに取り上げられています。コロニー数の減少が加速し、政府や企業、そして一般の人々の関心を集めています。ヨーロッパやアメリカでは、ミツバチヘギイタダニに抵抗性のあるミツバチを作るための取り組みが始まっています。問題は、プロジェクトの大半がボランティアの養蜂家によって行われているということです。彼らのモチベーションは大変高いのですが、その選択肢は限られています。20個以上の巣箱を所有する養蜂家はほとんどおらず、遺伝子学や育種等の科学的な分野における経験が不足しています。また、十分な資金援助もありません。Bejoはミツバチヘギイタダニ(バロアダニ)に関するプロジェクトにおいて、Arista Bee Researchと密接に連携しています。この財団はバロア抵抗性育種プロジェクトの中で、養蜂家、研究機関、大学、そしてその他関係者、それぞれの取り組みを上手く結びつけています。Youri Draaijerはこう締めくくります。「VSHの女王蜂とVSHの雄蜂を交配させるというような単純な話ではありません。健全性や花蜜の採集に対する意欲、作物を受粉させる際の効率の良さ、また穏やかな性格など他の特性も、Bejoミツバチの将来に欠かせない要素です。」

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ミツバチヘギイタダニとは

韓国型ミツバチヘギイタダニ(バロアダニ)は1904年頃、東南アジアのセイヨウミツバチのコロニーで初めて発見されました。現在ではオーストラリア大陸を除く全ての大陸で生息が確認されています。ミツバチヘギイタダニは1980年代の間に、ヨーロッパ、アメリカ、南アメリカへと急速にその生息範囲を広げていきました。このダニはミツバチの幼虫でしか繁殖することが出来ません。脂肪組織や血リンパ(昆虫の血液)を吸い取り直接的にミツバチを弱らせるだけでなく、羽の変形や腹部の小型化を引き起こすチヂレバネウイルス(DWV)のようなウイルスやバクテリアをミツバチの体内に広げ、深刻なダメージを引き起こします。